« 春の雨の中、お前は・・・ | トップページ | Jスポーツ様江 »

2005.04.03

なにげにさりげにけしからぬ

今日の毎日新聞の書評欄で「ことばの由来」という本が取り上げられていた。
まだ読んでいないが、この手の本(新書である/ことばに関する本/だけど齋藤孝じゃない(笑))は取り敢えず読んでおこう、という性向があるので、多分近々購入して読むことになるだろう。

その書評は小西聖子さんが書かれているのだが、その中に

「最近、若い人たちの間では、『なにげに』『さりげに』と使うことがあるようだ。(中略)なかなか興味のあることである。」さすがに言語学者、達観している。

という引用と感想が書かれていて、ふと思ったのが、昨日読み終えた「性の用語集」である。
様々な性に関わる用語(その中には「性」そのものも含まれるのだが)の由来や変遷、消長といったものが取り上げられている労作であるが、戦前、あるいは明治期などの文献などもよく引用されていて、その中に「怪しかる」という表現が何回か登場しているのである。
「怪しからぬ」ではない。「怪しかる」

私はこの言葉を非常に新鮮に感じた。
それで、「怪しかる」を「大辞林」(と言ってもYahoo!辞書検索で、だが)でひいてみると、「ふしぎだ。異様だ。えたいがしれない」という意味になる。「いっぷう変わっている。おもしろい」という意味もあるようだ。平家物語や増鏡にも用いられていた、古くからある言葉であるが、「性の用語集」に引用されている昔の文献(明治期あたり)で使われているときの使われ方からは、「不届きな」とか「許しがたい」、つまり今でいう「怪しからぬ」の意味が伝わってくる。おそらく、「怪しかる」にも、単に「ふしぎだ」とか「いっぷう変わっている」というだけでなく、「感心できない、悪い」という意味が、そもそも備わっていたはずなのである。

それが今では「不届きな、許しがたい、感心できない、悪い」という意味では専ら「怪しからぬ(怪しからん)」が使われ、「怪しかる」は使われないというのは、これこそふしぎな話である。
つまり、「なにげない→なにげに」「さりげない→さりげに」とは逆に、否定形にすることで、以前と同じ意味を持たせるような使い方に、この言葉は移り変わってきている、ということなのだろうか。→説1

まさかとは思うが、「けしかる」→「けしからむ」→「けしからん」(→「けしからぬ」)という移り変わりがあったとか?
推量の助動詞「む」が「けしかり」の未然形「けしから」につき、それが発音の上では「けしからん」と読まれ、何故か打ち消しの助動詞「ず」の連体形「ぬ」の終止形への転化と解されたのか?→説2

しかし、助動詞「ぬ」にはそもそも完了の意味合いもある。勝手に否定形だと思っていたが、実は「けしかり」+「(完了の助動詞としての)ぬ」=「けしからぬ」なのだろうか。→説3

こうなると気になるので、「広辞苑(第四版)」を引っ張り出してみる。
すると、そもそも元々の「けしかり(怪しかり)」の意味として、「わるくはない。ひとかど面白い」という意味が出ているのに目がいく。しかしこの「わるくはない」は倫理的な善悪の問題ではなく、「つまらなくはないね」という意味での「わるくはない」である。
その前に「けしからぬ(怪しからぬ)」の項目があるが、何とそこには「⇒けしからず」と書かれているではないか。この時点で、説3はアウト(笑)

問題の「けしからず(怪しからず)」である。そこにはこう書いてある。

(打消の助動詞ズが加わってケシの、普通と異なった状態であるという意味が強調された語とも、ズの打消の作用が「・・・どころではない」の意となった語ともいう)

新村出さん(ではないかも知れないが)も、「やっぱり変だよね、この語は・・・」と思って、いろいろ調べられたのだろう。その形跡が、この説明文から伝わってくる。そして、ここでは結論が出ていないようだ。
ここで引用されているものや、ググって出てきた用例などを見ても、「けしからず/けしからぬ」は大昔から使われている。意味も今と変わらない。「よくない。感心できない。わるい」とか「不法である。不都合である。不当である」なんて言う語釈もつけられているし、古典からの引用もある。
つまり、上に挙げた説1、2、3のいずれもハズレである。昔から人々は、今と同じ意味で「怪しからぬ」と言い、書き表してきたのである。
とにかく、ある語の否定形が元々の意味と同じ意味や、その強調形として用いられることがある、という訳だ。

ネットでいろいろ調べていくと、これに類する話は結構あるようで、「感に堪えない=感に堪える」なんていうのもそうだし、大阪語などでは「せわしい=せわしない」などがある。

そのようなことを念頭に入れると、「何気に」「さりげに」を一方的におかしな言葉だ、とは決めつけられなくなってくる訳である。そして、そもそも言葉は生きて、変化を続けていくものである。それも、思いもよらない経緯で変化していく、不思議なものなのである。

2005 04 03 11:29 PM [Book List, ことば] | 固定リンク

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/6325/3552862

この記事へのトラックバック一覧です: なにげにさりげにけしからぬ:

コメント

コメントを書く